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バイオメカニクス(生体力学)と 肩こり・腰痛の関係 後編 姿勢を正しても、すぐ元に戻ってしまうのはなぜ?
姿勢を正しても元に戻ってしまうのはなぜ?姿勢制御に必要な6つの要素と発育発達エクササイズのお話です。
姿勢を正しても、すぐ元に戻ってしまうのはなぜ?
後編

姿勢を正しても、
すぐ元に戻ってしまうのはなぜ?

今回は、昨日お送りしたコラムの続きです。

前回は、身体の動きを評価する際には、筋力や柔軟性だけでなく、「その姿勢や動きは、力学的に成り立っているのか?」という「バイオメカニクス(生体力学)」の視点が重要だと説明しました。

今回のコラムを読むと、私が常々言っている、「SNSの情報は参考程度にした方が良い」という言葉の真意も理解していただけると思います……と信じたいです(笑)

「鏡を見ながら姿勢を正した」

「体幹に力を入れて、良い姿勢を作った」

それでも、数日経つと元の姿勢へ戻ってしまう。

そのような方は多いと思います。
これには明確な理由があります。

簡単に説明すると、姿勢の形だけを直しても、「正しい姿勢を保つ能力」そのものが身についていないからです。

現在の運動科学では、姿勢を保つための「姿勢制御」には、主に次の6つの要素が必要だと考えられています。

姿勢制御の6つの要素
  • バイオメカニクス的拘束
  • 認知処理
  • 動的制御
  • 感覚戦略
  • 運動戦略
  • 空間知覚

少し難しい言葉が並びますが、できるだけ日常生活に置き換えながら説明します。

1.バイオメカニクス的拘束

これは大雑把に説明すると、筋力や関節の可動性など、身体を安定させるために必要な「物理的能力の限界」です。

恐らく、SNSで得られる姿勢改善の情報は、大部分がこの範囲に収まると思います。

例えば、姿勢を保つためには、
「大殿筋が大切です」「脊柱起立筋を鍛えましょう」などと言われることがあります。
これは、バイオメカニクス的拘束の中でも「筋力」に関する要素です。

では、「関節の可動性」はどうでしょうか?

人間は立位では、基本的に股関節と膝関節を伸展させて身体を支えます。しかし、そもそも股関節や膝関節を十分に伸ばせない人は、骨格を力学的に安定しやすい位置へ持っていくことができません。

そのため、いくら意識して姿勢を正そうとしても、正しい姿勢を維持することが難しくなります。

もう一つ、「安定性限界」という考え方があります。安定性限界とは、筋力や関節の可動性なども含めて、身体がバランスを崩さずに重心を移動できる範囲のことです。

例えば、電車が揺れたとき、すぐに姿勢を崩す人と、ほとんど姿勢を崩さない人がいますよね?これが、単純に筋力だけの問題ではないことは、何となく分かると思います。

また、「裸足」と「靴」でも条件は変わります。足指を使える人であれば、裸足になることで足指まで床に接触し、身体を支える「支持基底面」が広がります。その結果、安定性限界も広がり、バイオメカニクス的な拘束が少し減るわけです。

SNSでよく紹介される姿勢改善の情報は、大体ここまでです。ここから先は、恐らくSNSではほとんど出てこない話になります。ただし、詳細に説明するとめっちゃ難しくなるので、今回もざっくり説明します(笑)

2.認知処理

これは、言葉どおりの意味です(笑)
人間は、考え事をしているときとしていないときでは、姿勢制御の質が変わります。一般的には、複雑な考え事をしていないときの方が、姿勢を制御しやすくなります。

脳が処理できる情報量には限界があります。考え事や複数の作業に脳のリソースを使っていれば、その分だけ、姿勢や運動の制御へ割り当てられるリソースが少なくなると考えられます。

この知識を日常生活へ応用するなら、普段から姿勢が崩れやすい人は、筋力を鍛えるだけでなく「認知負荷を減らす工夫」も必要だということです。

  • 音楽を聴く
  • テレビを見る
  • 別のことを考える
  • PCで作業する

これらを同時に行いながら、「すぐ姿勢が悪くなって、肩が凝るんです」という方がいたとします。その場合は、姿勢を意識して胸を張るよりも、音楽やテレビを消し、考え事を一度やめて、目の前の作業へ集中した方が姿勢は安定するかもしれません。

姿勢の問題に見えても、実は筋肉ではなく、脳が処理している情報量の問題かもしれないのです。

3.動的制御

これが一番難しいやつです(笑)
ここでいう「動的制御」は、単純に動いているときの制御という意味ではなく、状況に応じた「臨機応変な制御」を指します。臨機応変な制御にも、意識的に行うものと、無意識に行われるものがあります。

近年では、「人間の行動は、脳の中に保存された運動プログラムだけで決まるのではなく、身体と環境との関係によっても作られる」という「エコロジカルアプローチ」の考え方も注目されています。

何のこっちゃ?という方が99%だと思いますが……。
例えば、私たちは平らな床、柔らかい地面、電車の中、混雑した歩道では、それぞれ違う姿勢や動き方を選択します。あらかじめ保存された一つの正しいプログラムを、どの場面でも同じように再生しているわけではありません。

周囲の環境や自分の身体の状態に応じて、意識的にも無意識的にも、その場で新しい姿勢制御の方法を作り続けています。精いっぱい頑張りましたが……これくらいの説明しかできません(笑)

4.感覚戦略

この分野については、最近ではSNSでも少しずつ情報を発信する人が増えてきたかもしれません。姿勢制御では、主に次の感覚情報が利用されています。

  • 体性感覚
  • 視覚
  • 前庭感覚

体性感覚については、足裏感覚や足指感覚が流行っていますよね(笑)
足指を使える人は、使えない人よりも、足指まで含めて身体を支えられるため、「支持基底面」が広くなる傾向があります。支持基底面が広がれば、より広い範囲で重心をコントロールできるため、先ほど説明したバイオメカニクス的な拘束も少し自由になります。

前庭感覚は、かなり大雑把に言えば、視覚などと組み合わせながら身体の傾きや平衡を把握する感覚と考えてください。

この3つの感覚の中では、一般的な環境において「体性感覚」が大きな比率を占め、姿勢制御の約70%を担うとも言われています。

だから当院では、「背中がベッドへ接触している感じは、左右どちらが強いですか?」「前屈したとき、どこか突っ張る筋肉はありますか?」などと、面倒くさいくらいに質問するわけです。
あれを、「施術効果を確認しているだけ」「奥川さんの自己満足」と思っている方は、考え違いをしていますよ(笑)
皆さん自身に身体の感覚を確認してもらうことも、姿勢制御を改善するための大切な過程なのです。あれこそ、皆さんのために聞いているのです(笑)

5.運動戦略

ここでいう運動戦略には、主に「予測姿勢制御」が含まれます。実は私たちは、手足を動かそうとするとき、実際に手足を動かす前から、体幹の筋肉を収縮させています。

例えば、右手を挙げようとすると、その動作によって重心が移動し、身体のバランスが乱れます。しかし、私たちの身体は、実際にバランスを崩してから慌てて修正しているわけではありません。

腕を動かすことによって起こる「重心移動」や「バランスの乱れ」をあらかじめ予測し、腕が動き始める前から、体幹のインナーマッスルを働かせています。

右腕を挙げる動作では、腕を持ち上げる「三角筋」が働く前に、体幹のインナーマッスルの一つである「腹横筋」が収縮します。その後、腕を持ち上げる三角筋や、身体が前へ倒れないように支える脊柱起立筋などが働きます。過去の経験から、これから身体に起こる変化を予測し、意識することなく筋肉を働かせているのです。人間の身体って、すごいですよね。

6.空間知覚

空間知覚とは、「垂直感覚」「正中感覚」など、空間の中で自分の身体がどのような状態にあるのかを感知する能力です。目を閉じていても、「自分の身体は真っすぐなのか」「左右どちらかへ傾いているのか」「身体の中心はどこにあるのか」を、ある程度感じることができます。

よく言われるのは、正中感覚が生後初めて現れるのは「寝返り動作」だということです。赤ちゃんは寝返りを繰り返し、身体をくるくると回転させながら、自分の身体の中心となる「軸」を感じるようになると言われています。もっとも、赤ちゃんに直接聞いてみなければ、本当のところは分かりませんけどね(笑)

6つの要素は、全てつながっている

ここまで、姿勢制御に関係する6つの要素を駆け足で説明しました。勘の鋭い方は、すでに気づいていると思います。これらの要素は、それぞれが独立して働いているわけではありません。全て相互に関係しています。

例えば、空間知覚には視覚、体性感覚、前庭感覚などの感覚戦略が関係します。足裏や足指から得られる感覚情報は、支持基底面の使い方にも影響するため、バイオメカニクス的な拘束とも関係します。認知負荷が高まれば、感覚情報を処理したり、状況に応じた運動戦略を選択したりする能力にも影響するでしょう。

「姿勢を改善するには、この筋肉を鍛えれば良い」

「このストレッチをすれば、正しい姿勢になる」

というほど、実際の姿勢制御は単純ではないのです。しかも、今回説明したものは、あくまで「現時点」で分かっている要素です。これ以外の要素も、十二分に考えられます。

しかし、今回紹介した6つの要素ですら、「全て初めて聞いた」という一般の方が大半だと思います。まあ、だからSNSの情報は参考程度で良いわけです(笑)

当院が発育発達エクササイズを指導する理由

話を戻しましょう。姿勢を正しても、すぐに元へ戻ってしまう方がいた場合、当院では以上の6つの要素を確認します。

姿勢悪化の原因が明確に一つへ絞れる場合には、その原因に特化したアプローチを行うこともあります。例えば、「股関節の伸展可動域が、正常値である15度に届かず、マイナスになっている」など、理由が明確な場合です。この場合には、施術で股関節の関節モビリゼーションや筋膜リリースを行い、セルフケアとして股関節のストレッチを指導するでしょう。

しかし実際には、一つの原因だけで姿勢が悪化している方は多くありません。大半の方は、先ほど説明した6つの要因が「混在」しています。

そこで当院では、姿勢改善の運動として「発育発達エクササイズ」を指導するケースが多くなります。発育発達エクササイズは、「全ての人類が行ってきて、全ての人類が正しい姿勢を身につけてきた方法」だからです。

赤ちゃんは、誰かに「腹横筋へ力を入れてください」「重心を踵側へ移してください」「前庭感覚を使ってください」と教わって立ち上がるわけではありません。感覚、筋力、関節の可動性、空間知覚、予測姿勢制御などを同時に働かせながら、徐々に姿勢を獲得していきます。

つまり、発育発達の過程には、先ほど説明した6つの要素を改善する方法が、最初から組み込まれているのです。それどころか、現在の運動科学では、まだ解明されていない要素も含まれているはずです。

また、この発育発達の過程は、人種や性別に関係なく、基本的には同じ順番で進みます。つまり、皆さんは必ず一度、「同じような順番、同じような内容」で、姿勢制御を学習してきたわけです。だから、意識的にも無意識的にも、脳が覚えやすいのです。

ぶっちゃけ、皆さんは私が明日死んでも(笑)、教わった順番で運動を続けていれば、姿勢を改善していけるわけです。先生へ依存しなくて良くなるなんて、最高じゃないですか?

私の本分は、パフォーマンスピラミッドの一番下にある「土台」を広げることにあります。そして、皆さんに心も身体も自由で平和になっていただくことが、私の最終的な目的です。だからこそ、あえて「発育発達エクササイズ」を指導しています。

発育発達エクササイズを一つ紹介します

写真の方も「体幹トレーニング」を少し実践しただけで、スウェイバックと反張膝が大きく改善しました。

体幹トレーニング後の姿勢改善例

しかし、問題はここからです。このように静止した状態で姿勢が改善しても、しばらく日常生活を送ると、元の姿勢へ戻ってしまうケースがあります。この方の場合は、恐らく「重心コントロール」を改善する必要があります。

人間は、日常生活の中でずっと止まっているわけにはいきません。歩く、かがむ、身体を反らす、振り向くなど、絶えず身体を動かしています。身体が動けば、そのたびに重心も移動します。そのため、私たちは日常生活の中で、重心コントロールを繰り返す必要があります。

姿勢の戦略としてスウェイバックを好むように、姿勢が崩れやすい方は、重心コントロールでも誤った戦略を選びやすいケースがあります。その重心コントロールを日常生活の中で何度も繰り返すことで、筋肉や関節のアンバランスが助長され、不良姿勢がさらに固定化していくわけです。

私が施術前に「前屈・後屈」「側屈」「回旋」などを確認しているのは、どこまで動くか、関節が正しく動いているかを見るためだけではありません。その動作の中で、どのように重心をコントロールしているかも見ています。

前屈では踵側、後屈ではつま先側へ

今回は、前屈と後屈における正しい重心コントロールだけを説明します。

・前屈動作:深くなるにつれて「踵(かかと)側」へ

・後屈動作:身体を反らすにつれて「つま先側」へ

「えぇっ!? つま先側じゃないの?」と思った方も、結構いらっしゃると思います。
これは、超簡単に説明できます。前屈する際、目の前が「断崖絶壁」だったらどうしますか?つま先側へ体重を移動しても大丈夫でしょうか? 踵側へ体重を残した方が、絶対に安全ですよね?

つま先側へ体重を移した状態では、後ろから軽く押されただけで、断崖絶壁へ落っこちてしまいます(笑)

写真の方は、この重心移動が見事に逆になっていました。恐らく、毎回来院するたびに「スウェイバック」「反張膝」へ戻っている原因の一つは、そこにあります。日常生活の中で誤った重心移動を無意識に繰り返すことで、せっかく整えた姿勢が戻ってしまうのです。

この方はお仕事が非常に忙しく、なかなか体操の時間を作れません。施術だけになることも多いのですが、時間があるときには体操を取り入れ、少しずつ身体に覚えてもらっています。

姿勢制御は、発育発達の順番で身につける

赤ちゃんの発育発達では、次のような順番で姿勢制御の運動学習が進みます。

臥位(寝た状態)

座位(座った状態)

膝立ち位

片膝立ち

つかまり立ち

立位(立ち姿勢)

そう考えると、今回は随分と「飛び級」になりますが(笑)、立位の前段階である「膝立ち位」のエクササイズ動画をシェアします。

このエクササイズがうまくできない方は、本来であれば「座位」へ戻ります。座位でもうまくできない場合は、さらに前の「臥位」へ戻ります。

発育発達エクササイズによる運動学習は、ピラミッド状に積み上がっていくものだからです。前の段階につまずきがある状態で、その先にある難しい運動をいくら頑張っても、なかなか上達しません。

今回のエクササイズも、ただ回数をこなすのではなく、実施前と実施後で姿勢や動きをチェックしてみてくださいね。

※イラスト引用:「身体運動学」市橋著(メディカルビュー)

※痛みやしびれが続く場合、急に症状が強くなった場合は、自己判断せず医療機関へご相談ください。

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