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《師の言葉:この仕事はもつれた糸をほぐす作業のようなものだ》

私が徒手療法を始めて15年以上になりますが、本当に色んな先生に様々な技術を学びました。

 

しかし、一番お世話になった先生で師匠だと思っている人はただ一人です。

 

割と有名な先生でメディアにも度々出ています、あん摩マッサージ指圧師であり、カイロプラクターでもある方ですが、現在は自分自身の考案したメソッドを普及する活動が中心の方です。

 

私が通っていた整体学校の顧問だったので、毎週授業で徒手療法を教わっていましたが、卒業後も先生が毎月開いていた開業者向けの技術セミナーに4年間通っていました。

 

なので、合計すると6年近く技術を学んでいたので、本当に技術以外にも様々な事を先生から学びました。

 

「ゴッドハンド」と呼ばれる事の多い先生でしたが「ゴッドハンドと言われて、本気で喜んでいる施術家は終わってる」とよく言っていました。

 

また、セミナーの途中で先生たちを集めて

 

「皆さんは私からどんな痛みも取り除く技術を学びに来ていると思いますが、そんなのは全然大した事じゃないのですよ!」と言って、シーンとなった後に

 

「本当に凄いのは痛くならない方法を教える事なんですよ」

「だって、痛くなってからじゃ遅いでしょ?痛くならない方法教える方が凄いよ!だって、そもそも痛くならないのだから()

 

と言って、受講生を「キョトン」とさせる、そんな不思議な先生でした。

 

しかし、そんな言葉の多くがその時はピンと来なくても、数年後に「そうだったのか!」と感嘆するような深い意味があったものです。

 

その内の一つに

「私たちの仕事はもつれた糸をほぐす作業のようなものなんだよ」

というのがあります。      

 

この言葉を聞いた当時の私は額面通りに、絡まったものを元に戻す作業なんだな。

と思っていました。

 

しかし、15年以上たった最近は違う受け取り方をしています。

まぁ、これは私なりの解釈で、先生はそんな意味で話してないかもしれませんが…

 

《人の身体は線形科学、1+1=2では計算出来ない?》

 

皮膚科学の専門家で資生堂の研究員である傳田氏の著書に、皮膚科学のシュミレーションは長い間「線形科学」の計算式を使っていたが、それでは精度が低かったのでどうすれば良いか?と考えていたが

 

ある時に植物の成長シュミレーションなどで使う「非線形科学」の専門家の方に出会って、非線形科学で使う計算式を教わり、活用したところ高確率でシュミレーションが現実の皮膚の状況を反映するようになったと言います。

 

つまり1+1=2のような線形科学の考えでは生命の活動を予測出来ないと言います。

これは簡単に理由を説明すると、今の現象の「結果」が新たな現象の「原因」になるからだと言います。

 

人間の身体で言うなら、筋膜ネットワークは筋線維だけでなく、骨格、神経、内臓、なども包み込んでいますから、筋膜をリリースすると言う事が筋線維に影響を与えるだけでなく、骨格にも影響を与える、神経にも影響を与える、内臓にも影響を与える。

 

そして、それらが同時に筋膜や筋線維に影響を与える事にもなる訳ですから

+1=2のように簡単に考える事は出来ないどころか…一つのアプローチの結果が2日後、3日後にようやく表れると言う事も十二分に考えられる訳です。

 

実際に私は筋膜を研究している国際的な協会である、ロルフィング協会の人達とセミナーを合計6年間ほど実施していました、3人の先生にご協力いただきセミナー開催してましたが、どの先生も2~3日後に全身の筋膜ネットワークが統合され、変化が定着すると言っていました。

 

確かに当院のお客様でも2~3日後が一番体調が良いと言う方が多いです。

 

《運動学習も小さい子供は非線形》

 

筋膜ネットワークだけでなく、私たちの運動制御の学習、モーターコントロールなども近年は「非線形」で成長する要素が重要と言われています。

 

これは意外にもコンピューターのアルゴリズムの研究結果と合致する事から言われ始めた事なのですが…

 

私たち大人の運動学習は教師有り学習と言う方法を多用します。

これは事前に答えと思われるものを提示しておいて、それに近づく為の情報を集めて、答えらしきものを得る方法です。

 

正しいトレーニングフォームがあらかじめある、現在主流の運動学習の方法は正にこれです。

 

これはコンピューターのアルゴリズムでも、人間の運動学習でも、線形の学習曲線を描くそうです。

 

+1=2のように学習していく訳です。

 

しかし、この方法での運動学習の弱点は

✅答えが分からない問題は答えを出せない

と言う事だと思います。

 

対して、小さい子供の頃は教師無し学習と言う方法を多用するようです。

これは考えてみたら当たり前ですよね?

 

だって、子供は遊びの中で自然に運動を学ぶ要素が多いですし、正しい動きを言葉で教えても理解出来ない子供も多いと思います。

 

教師無し学習と言う方法では、答えを提示せずに情報を無作為に選び、回路自体にクラスタ化(似たような情報を寄せ集める)させ、答えに近づく方法です。

 

この教師無し学習は一見して効率が悪そうですが、実際には効率が良く、実際コンピューターのアルゴリズムでは教師無し学習を取り入れる事でブレイクスルーしたと言われています。

 

また、教師無し学習は答えの無い問題の答えを探す時にとても有効だと言われています。

 

私たちのような大人の運動制御系は、教師有り学習と教師無し学習の双方をバランスを取りながら学習をしているようですが、現在の運動学習の実践方法自体が教師有り学習の手続きなので、脳みその方も教師有り学習のアルゴリズムをたくさん使ってしまいがちだと思います。

 

しかし、子供の頃に自転車に乗れるようになるために、お父さんが乗り方など教えずに、自転車の荷台を持っていて、子供がとにかく転びながら自転車に乗る方法を学ぶような教師無し学習的な方法では

 

なかなかスキルが上達しないプラトーのような状態から、ある時一気に自転車に乗れるようになるような「非線形」の学習曲線を描く経験を子供の頃に誰しもしていると思います。

 

これは無意識に情報を「正しい答え」というバイアスで情報収集してしまう教師有学習と違って、バイアス(偏見)なく幅広い情報を集める事が出来ます。

 

教師有り学習では答えが正しい場合は良いですが、答えが間違っている場合には、必要な情報が集まるのに非常に時間が掛かってしまうケースが出てきます。

 

だいぶ脱線したような感じですが、実は脱線では無くて、私の徒手療法の師は教師無し学習のような事を言っていたのかな?と現在は考えています。

 

つまり、施術家は理論的な人が多いので、ついつい「この腰痛は○○が原因に違い無い」と、予め「答えらしきもの」を元に情報を集めたり、教師有学習のアルゴリズムのように施術プランを決める人がいます。

 

しかし、実際には私の師が言うように結果は考えず、ただクライアントの身体のバランスを調整する事に集中する教師無し学習的な方法。

 その方が効率が良い事が多いです。


皆さんはもつれた糸をほぐそうとする時に「ここからもつれたのかな?」など考えながらほぐしていると更にもつれる経験をした事はありませんか?

 

そういう時に考える事を諦めて、粛々と目の前のもつれを取り除く事に集中していたら、知らない内にほとんどほぐれていて「あぁ、これが原因でもつれていたのか!」と原因も分かる事はありませんでしたでしょうか?

 

私は最近は今一つ原因が分からない症状のクライアントが来たときは「手に任せる」という方法を取ります。

 

思考としてはせいぜい目の前のクライアントの身体のバランスを整えようという位で、あとは手の感覚に一点集中します。

 

そうする事である時に急激にクライアントの身体が思考で無く、感覚的に理解出来て、一気に施術が進む事が多々あります。

 

こういう事を師は言いたかったのではないかな?と最近は考えるようになってきました。

その理由としては

 

「理屈では無く、ほぐれろ、ほぐれろ、と一心不乱に念じながら施術するような事も時には大事なんだ」とも言っていたからです。

 

その時はなんだか科学的でない事も言うんだな、と思っていましたが、勉強すればするほどに「それこそが科学だ」と気付きましたね。

 

ともかく、師の残した言葉は10年、20年経つほどに響いてきます。

多分そうなるように話をされているんだと思います。

 

その時にすぐ理解出来る話は大したことは言ってない事が多くないですか?

10年後、20年後に深みを増してくる話の方が私には素晴らしく感じます。

 

そんな話をたくさんしてくれた師匠にはいくら感謝しても足りないくらいです。

知識、技術だけじゃなく、そういう言葉の宝物をたくさんもらったんだなと今は感じる事が多いです。

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